会話、そのやり取りは俺の知る秋本と同じ匂いを感じた。
なんだかすっごく安心する。
知っているようで知らない世界の中で、俺の親しみある何かを見出せた。
それが凄く安心する。
なにより、此処にいてもいい。
その台詞に救われた気がする。
何だかんだいっても、やっぱ不安だったんだ。
未知の世界でひとり、彷徨うのって。
ホッと息をつき、俺はさっきまで座っていた自分の位置に腰を下ろす。
鞄を脇に置いて、テーブル台に上体を委ねた。
自然と下りてくる瞼は、安堵からだったに違いない。
満腹、疲弊し切っていたっていうのも勿論、理由に挙げられるけどさ。
「坂本。お風呂、あんたから先に…、あれ。寝てるの?」
程なくして、秋本の声が聞こえてくる。
気配が俺の隣に感じられた。
「幽霊じゃないのよね」
そっと髪を撫でてくる手は、きっと俺よりも大きくてしなやかな手をしているに違いない。
彼女の笑声が俺の鼓膜を打つ。
あたたかいものに包まれるのは一体なんだったのか、容赦なく睡魔に襲われている俺には分からなかった。
散々惰眠したってのに。
そのあたたかいものは良い匂いがした。
とても良い匂い、安心するぬくもりと甘い香りに包み込まれて、俺の精神は安定する。
厄日の中で見つけた、確かな、安定剤だった。
⇒2章