「なあ秋本」
青空を仰いだまま、俺は口を開いた。
向こうで返事する彼女に告げる。
俺はシアワセで大切な時間を過ごしたのだ、と。
とても大切な時間を過ごしたのだ、と。
消えた一つの未来を、あの未来を絶対に忘れたくないのだ、と。
何の話か分からないであろう、彼女に構わず、俺はただただ青空を見つめ、見つめ、見つめ続ける。
自然と沁みる青空の色に涙腺が緩んだ。
悲しいわけじゃない、嬉しいわけでもない、ただ涙腺が緩んだ。
目に沁みたんだろうな、高い高い青空の色に。それを拭うこともせず、俺は彼女にはにかんだ。
「約束を守れて良かった。こうしてまた好き…、大好きなお前に会えて良かった」
あれほど躊躇していたっていうのに、秋本が上履きのまま外に飛び出す。
俺よりも小さな体躯をゴムボールのように弾ませて、こっちに駆けて来る彼女の表情はまるで雨空からぽっかり青空が顔を出したよう。
それは俺の知る、俺の知った、秋本の笑顔。
否、二度目ましての眩い笑顔。
記憶の秋本と目前の秋本が笑顔が一致して、新たな彼女の笑顔が彩られた。
腕に飛び込んできたら、まず彼女にちゃんと言わないとな。