足で襖を開けてくるのは兄貴だ。

学校から帰って来たらしい。


失踪前の俺なら勝手に上がってくる兄貴に文句を言うだろうけど、今の俺は「なに」返事を返すだけ。

なんか一々文句を言っていた自分が馬鹿らしく思えたんだ。


制服姿のまま部屋に入ってくる兄貴にお帰りと目尻を下げ、何か用かと相手に質問する。

物言いたげな表情を作る兄貴は、「また勉強してるのか」素っ気無く毒づいてきた。


「だって俺、このままじゃ受験もできないだろうからさ。元々成績も良くなかったし…、成績が上がれば母さん達も安心だろ?」


すると兄貴は不機嫌面を作って、「いいんだよ。あいつ等は」わざとらしく鼻を鳴らした。

親失格だとふてぶてしく吐き捨てる兄貴は、どっかりと俺のベッドに腰掛けた。


……兄貴、親と仲が悪くなってるんだよな。

此処暫く俺としか喋っていないし。
なんで仲が悪くなっているのか、兄貴は語らないけど俺は知っている。


「なあ兄貴。参考書を貸してくれよ」


話題を切り替える。

本屋へ買いに行きたいけど、外に出れそうにないから兄貴のを貸して欲しい。

俺の申し出にあっさり承諾してくれる兄貴は、ついでに勉強を見てくれると言った。


「サンキュ」俺は椅子ごと兄貴の方を向いてお礼を口にする。


仏頂面を作る兄貴は、「それより健」ゲームしようぜ、と誘ってきた。


ゲーム…、そういや此処暫くしていないな。1ヶ月はしていない筈。

 
「対戦相手がいなくてツマンねぇんだよ。おら、行くぞ」


有無言わせず、ベッドから下りた兄貴は俺からノートや教科書を引っ手繰って閉じてしまう。