俺は写真立てを戻して居間を探索。
物は増えているみたいだけど写真立て以外、興味を惹かれるものはなかった。
瞬きをして俺は廊下に出る。
丁度、話を終えた母さんが落ち込んだように電話を切っている姿が目に飛び込んできた。
同時刻、呼び鈴と共に玄関の扉が開かれる。
父さんが帰宅したようだ。
くたびれたスーツを身に纏っている父さんは、何故だろう、小さく見えた。
本当に小さく見えた。あんなに背中が広く見えていたのに。
母さんも老けたな。
白髪、目立ってるよ。
老けた父さん、そして母さんにカルチャーショックを覚えていると、夫婦の会話が聞こえてくる。
どうやら兄貴が再来週の日曜に帰って来る予定だったんだけど、それがおじゃんになってしまったらしい。
またキャンセルされてしまったと母さんが微苦笑を漏らして、父さんから鞄を受け取る。
「そうか」同じ表情を作る父さんは、諦めたような顔を滲ませてネクタイを緩めながら先導を歩く。
「聡がキャンセルしてくるのはいつものことだな。あいつは何かと理由を付けて、帰りたがらないから」
「そうね」母さんは首肯する。
俺の姿に気付かず(やっぱ見えていないようだ)、二人は寝室に入ってしまう。
俺も後に続いた。父さんからジャケットを受け取った母さんは、それにハンガーに通している。
何気ない光景だけど、俺にはびっくり仰天の光景だ。
二人が険悪なムードになってからは、そんなところ、一度たりとも見なかったから。
物寂しそうにしている母さんは、孫の顔が見たかったと未練がましそうに口ずさんでいる。
何も言わない父さんは家着に着替えると、先に食事にすると告げていた。