いつまでも席に座っている俺に焦れた彼女は黒板消しで、黒板を綺麗にしながら、「そろそろ行きましょう」と声を掛けてくる。

ルンルン気分で席に座っていた俺だけど、気持ちが次第次第に萎む。

机上を見つめ、瞬きを一つ。

んで、俺は努めて明るく話題を作った。


「なあ秋本。俺が初めてお前に告白したの、憶えてるか?」


お前にとっちゃ15年前になるだろうけど。

問い掛けに彼女の動きが止まった。

で、「さあ」もう昔の事だから、と誤魔化された。


照れ隠しなのかもしれない。気にせず俺は続ける。


「俺が秋本に告白したのは三年に進級してすぐのことだったっけ。二年の頃、お前と同じクラスになって、やたら気の強いお節介のお前のことが気になり始めて」


よく掃除をサボっていた俺に注意を促していたのもお前だったよな。

『ちゃんとやって』がお前の口癖だった。

疎ましいと思っていた一方で、お前の事が気になって気になって、気持ちが抑えきれなくて三年に上がって俺はお前に告白した。


まあ、お前は「ありえない」の一言で一蹴してくれたけどさ。
 

諦めの悪い俺は絶対にお前を振り向かせようと、毎日のように告白攻撃。

鬱陶しいって喝破されることも多々だったけど、俺は思っていたんだ。

好きと言えば絶対に相手に振り向いてもらえるって。


単純に好きと言えば相手に伝わるものだと思っていたんだ。

子供だな、ほんと。
 

あの頃、1996年当時の俺は“好き”を軽く見ていたのかもしれないな。

実は俺、失踪する日、お前が誰かに告白されているのを目撃したんだ。


で、痛感したんだ。

馬鹿の一つ覚えみたいに気持ちを押し付けても、お前は困るだけだったんだろうなぁ。


冷静になってそう思うようになった。


だけど俺はお前を好きになって後悔はなかった。だって今、こうしてお前と縁があって過ごせるんだからさ。
 
お前が縁を引き寄せてくれたのかもしれないな。

遠藤から聞いたよ、お前、ずっと俺のこと探してくれていたんだろう?

その気持ち、スッゲェ嬉しかったよ。ほんと嬉しかった。