ふと気が緩むと体が明滅を始めた。

「やっべ」

消えちまう……、透けては元通りになる体に焦燥感を抱く。

途端に島津が声音を張って、


「消・え・ん・な!」


人の背中にとび蹴りをしてきた。つ、痛烈!

見事に蹴りが決まり、俺はずっこけた。「イッテー!」顔面を打ったと叫んでキャツを睨めば、「うっし」元に戻ったと島津が指差してくる。


「あ、荒療治にも程があるだろお前。ちったぁ労われ。まだ実体はあるんだから!」

「いいか、健。俺はお前にぜってぇ奢ってもらうんだからなっ…! 奢らせるまで成仏させて堪るか!」

「そうだよ、僕だけ徹也に奢るとか論外だし。約束したからね、守ってよ。今度は三人旅だからね」


面食らう俺だけど、捲くし立ててくる二人に「おう」と返事する。

ここからはひとりで行く。ひとりで行かないと行けないんだ、どうしても。

二人に告げると、「分かった」じゃあ今日は天音と二人でファミレスに行く。けど今度は三人だからな、島津がしっかり釘を刺してきた。うんっと頷く。


「またな。島津、永戸。サンキュな」

 
門を潜り、顧みて手を振る。
 

「またな、健」

「またね、坂本」


見送ってくれる二人に微笑み、大きく手を振って別れを惜しむ。

永戸、島津、お前等、本当に良い奴だったよ。
 
お前等を見ていて、なんか大切なことに気付いた気がするんだ。

例えばそう、友達と一緒に過ごせる時間の大切さとかな。
縁があったらもっぺん会って、今度は三人でちゃんと遊びたい。縁と時間が許せば、な。
 

閑話休題、中学校の校舎に入るために学ランに着替えてきたわけだけど、念には念を、更に念を入れてキャップ帽を被っている。

実は顔を隠すためのこのキャップ帽、意外と気に入っちまっているんだ。

秋本が買ってくれたからってのもあるかも。


万人に見えないと分かっていつつ、なんとなくキャップ帽がないと心寂しい。


これは俺が2011年から消えるまで、大事なお守りにしておこうと思う。
 
 
「よし」


気合を入れて前へ進む。

暮れてしまった校舎に足を踏み入れるのは、かーんなり不気味。

学校でホラー映画が作られるだけあって、外から見るだけでもなんとなく恐怖心を煽られる。

自分が幽霊(透明人間?)になっているとはいえ、やっぱ不気味なものは不気味で怖いものは怖い。


だって俺、これでも気持ちは一端の人間だから。

まだ部活で校舎を走り込みをしている陸上部を脇目で見つつ、俺は土足で校舎の中に入る。

そして秋本を探すために廊下を直進。薄暗い廊下のせいで点灯している非常用ランプの赤さが妙に生々しい。


静まり返っている廊下が、これまたなんとも妖しさを漂わせている。

なんか出そうだ、夜の学校は苦手かもしれない。

もしも本物の幽霊に出会ったら愛想よく挨拶でもしてみよう。