途中転倒したけど、すぐに起き上がって俺は俺を呼ぶあの場所に向かう。
上がった息も、苦しい呼吸も、流れる汗も全部無視。
石段を駆け上がって、例の場所に到着した俺は縺れる足もそのままにご神木前に立つ。
ざわざわ、葉と葉を揺らして俺を出迎えてくれるご神木は、妙に落ち着きがないような気がした。
どうしたんだ、そんなに落ち着きがないなんてお前らしくない。
俺を呼んだのはお前だろ。
落ち着けって。
息を弾ませながらそっとご神木の肌に触れる。
あったかい木肌はいつものように俺を癒してくれるような気がしたけれど、やっぱり落ち着きがなくって。
よしよし、どうどう、馬を宥めるような手つきで木肌を擦ってやる。
何度も何度もそれを繰り返しているうちに、俺の手の動きが鈍くなっていく。
そして手を止めてしまった。
「まさか」
息を詰めて、俺は木肌から手を離し、そっと自分の両手の平を見つめる。
乾き始める口内に唾を送って、「まさか」俺は力なくご神木を見上げた。
打って変わって頼りなく、葉を揺らしているご神木は項垂れるように何度もザワザワと音を奏でている。
泣き笑いする俺は、「そっか」肩を落として、軽くご神木とタッチ。
気にするなと伝え、根元に座り込んで背を預ける。
ご神木が訴えたいことを理解してしまった。俺は理解してしまった。