きみとぼくの、失われた時間




「……、お前、本当に大丈夫か?」



どうやら全部口に出していたようだ。

シカトを決め込んだ筈なのに、少年は訝しげな顔で俺を見てくる。俺は大丈夫じゃないとおどけた。

やや癪に障ったのか、不機嫌度が増す。


でもってこれ以上関わる気がないのか、鼻を鳴らして滑り台から背を離した。


最後に俺をもう一瞥して去って行く少年に俺はやっぱり肩を竦めるしかない。
コミュニティーがなってないよなぁ、ほんと。
 

「さてと、コンビニに行かないとな」


いつまでも此処で時間を潰してもなんだしなぁ。 

滑り台から背中を離した俺は、少年のことも忘れて軽快な足取りでコンビニに向かう。

以後、あの少年とは関わらないだろうと高を括っていたから忘れてしまったのかもしれない。



だけどすぐに彼のことは記憶として呼び覚まされることになる。



何故なら、コンビニ先でばったり遭遇してしまったからだ。
 
すこぶる嫌な顔をしてくる少年はまたお前かって顔をしてきたけど、このめぐり合わせは偶然だぜ? 俺の意思じゃないからな。

近付いてくんなオーラを醸し出す少年にハイハイと相槌を打った俺は、さっさと粥を三袋、自分の昼食用の握り飯、それからミネラルウォーターを買うことにした。

向こうは俺が出て行くまで、飲み物売り場から動かない様子。腕を組んでこっちをチラ見してくる。


2011年の子供って可愛げがないな。

それともあいつ自身の性格に難があるのか? どっちにしろ可愛くねぇ性格だ。
 

「はい、そこ退いて」


ミネラルウォーターを買いたい俺は、飲み物売り場を陣取っている少年を押し退けて扉を開ける。
 
舌を鳴らす少年はギッと俺を睨み、頭から爪先まで満遍なく俺を観察。そのままプイッと視線を天井に逸らした。


「……は?」


と、彼が声を上げる。
 



一変して驚愕する少年はこっちを凝視してきた。

天井の四隅と俺、交互に視線を配る少年に首を傾げる。

俺の格好、おかしいか? 変なところなんてないと思うんだけど。

肩を竦めて、飲み物売り場を後にした。
お会計を済ませ、コンビニを出て帰路を歩く。
 

「よし、帰りは真っ直ぐに帰るか」


スタスタスタ、スタスタスタ。



「サッカーのことはグズってもしょうがないし」 


スタスタスタ、スタスタスタ。



「あいつも二日酔いで唸ってるだろうから介抱しないとー……」


スタスタスタ、スタスタスタ。
 
 

「………」
 

 
ピタ、ピタ。
 
足音を擬音化するとこんなかんじ。
 

俺は眉根を寄せ、前方を見据えた。

恐る恐る横流しに背後を確認。

視線を戻して顎に指を絡める。


なんでコミュニティー能力の低い少年くんが俺の後をつけて来ているのだろうか。

俺をあんなに疎ましいと思っていた筈なのに……、いやそれともこれは気のせいだろうか。



スタスタスタ、俺は歩みを再開させる。

すると何メートルか後ろに立つ少年もスタスタスタ。

俺が右折すれば、相手も右折し、俺が直進すれば、相手も直進し、俺が止まれば、相手も止まる。


……確定、つけられてるだろ。


勢いよく振り返れば、何故か身構えてくる少年くん一匹。ジトーッと俺を見つめてくる。

初めましてとアイコンタクトを取れるほど、俺もコミュニティー能力が長けているわけじゃないから、お口で質問。「俺に何か用?」と。

たっぷり間を置いて少年くんは意を決し、おずおずと俺を指差してきた。



「お前さ、本当に幽霊なの?」



ジョークで言った言葉を真剣に訊ねてくるもんだから、俺はちょっち顔を強張らせて理由を聞く。


「だってお前……コンビニの防犯ミラーに映ってなかったし」


ゲッ、あいつ。

天井を仰いでいたのは、防犯ミラーを見てやがったのか!

「しかも」ズイーッと視線を下げる少年は俺の足元を指差した。

まさか足が透けているとかっ、慌てて視線を落とすけど透けた様子は無い。

なんだよ、驚かせるなって。足あるじゃんかよ。

 
だけど少年はツンツンと自分の足元を見るように言う。

俺は少年の足元を見た。お前も足じゃんかよ、バッチシ見えてるけど。見比べるように言われて俺は腕を組んだ。

少年の足元と俺の足元、何が違う?

足はあるし、靴も履いてるし、もっと下に向ければ影だって……、へーい影……、俺の影……、影はいずこ?


サーッと青褪める俺は「嘘だろ」悲鳴を上げたくなった。
 
今の今まで気付かなかったけど、俺、影がねぇ。あって当たり前だって思っていたから、気付かなかった。盲点! ……鏡に映らないイコール、影もないってことなんだろうか。

うをおいいっ、もう本格的に外を歩けねぇじゃん!

ふうっと息をつく俺は、興味津々に見つめてくる少年に一笑。
 

「幽霊ジョークのせいで、君には俺の姿形が見えなくなっているようだね。あはは。いやぁ参ったなぁ」

「ジョークで鏡に映らないのか?」

「俺、体の色素が薄いんだ。よく目を凝らしたら映っているから」

「影は?」

「影はちゃーんとあるよ、ちゃーんと」

「何処に?」

「え? あぁあ……後ろについてるかなぁ」


苦しい、かんなり苦しいぞ。この言い訳!
 
しかも向こう、全然信じて無さそう。歩んで俺の影を確認してくる。 


「ねぇぞ」「本体から抜け出して、今頃は公園辺りでたむろっているんじゃないかと」「じゃあ公園に行けば戻るのか?」「えーっと」「なあ?」「いやぁ」「なーあ」


幽霊を怖がるどころか、好奇心ばりばりで俺を見てくる少年くんに俺は追い詰められた。

やばいやばいやばい、どうにかして切り抜けないと。

事が知れたら、秋本や遠藤に叱られる!


……隙を見て逃げる、か。


「そうだよ、俺は幽霊だ。サッカーのことが忘れられず、この世を彷徨っている可哀想な幽霊くんだよ。お前は俺のこと怖くないのか?」

「怖くねぇっつーか、なんっつーか。まだ信じきれねぇっつーか」



 
けど影がないなんて、理科的におかしいし。鏡面に映っていないのもありえねぇし。普通にコンビニで物を買っていたし。
 

ブツクサ独り言を唱え、腕を組んでいる少年を糸目で観察。

あさっての方角を向くキャツにしめたと忍び笑いを浮かべ、隙を見てアスファルトを蹴った。頃合を見計らったかのように少年の足が伸び、俺の足に引っ掛かる。危うく転倒しそうになった。

 
つんのめる体を堪え、「何するんだよ!」つい顧みて喝破。

「実体はあるんだな幽霊」

ニンマリと笑う少年がそこにはいた。
  

「逃げられると思ったか? 俺、丁度暇してたんだ。声を掛けてきたのはお前だし、ちょい付き合えよ。なんか面白そうじゃん」


ゲッ、なにこいつ。
 
2011年の子供ってマジ礼儀知らずの身勝手!

ごめんだとばかりに俺はダッシュする。

今度こそ走ることに成功したわけなんだけど、「逃がすか!」俺の足はクラスで三番内に入るんだぜ! と、少年もダッシュ。

本当に足が速い。
直進じゃ勝ち目がないと判断した俺は民家の敷地に飛び込み、相手を撒く作戦に打って出た。

 
けれど相手には通じず、民家の敷地に飛び込んで俺の後を追ってくる。

こうして俺達の愉しい鬼ごっこの幕が上がった。
 

 
快晴の下。
 
穏やかな住宅街をひた走る。一体、今、何処をどう走り、何分経ったか分からないけれど、とにかく足を懸命に動かして逃げ惑う。

背後を一瞥。泣きべそを掻きたくなった。
あいつ、まだ来るんだけど! 足速いし!

吹き飛ばされそうなキャップ帽を片手で押えつつ、細い歩道を駆け抜ける。

気付けば俺の知る景色に染まっていた。


左端に見えた石段に目を付け、そこを一気に駆け上が、れなかった。


「や、っと、捕まえた」

 
ゼェハァと息をつく少年に腕を掴まれる。
 
俺も忙しなく胸を上下に動かし、もう走れんと音を上げる。


「く、そ。お前、しつけぇよ」

「ばっかやろ、俺から、逃げられる、と思ったか?」


顔を見合わせ、「自意識過剰」「うるせぇ幽霊」小さく噴き出す。

これ以上、逃げられないだろう。ああくそ、観念しようと思う。



「―――…ふうん、1996年から15年後の世界、2011年にねぇ。嘘っぺぇ話だな。信じられねぇや」



島津 徹也(しまづ てつや)。
 

2011年時点で15歳の中学生、謂わば15年後にタイムスリップしてきた俺と同級生らしい。

買ったサイダーを飲みながらジロジロと俺を観察してくる。


一方の俺は頭を抱えていた。

なんでこうなっちまうかなぁ、人恋しさで招いた自業自得とはいえ、これは非常に不味い事態。

だって俺は15年前に失踪して以下省略。
顔は近所にばれちゃ以下省略。
こんな話も暴露しちゃいけない以下省略。

でも相手を誤魔化しきれそうになかったから話すしかなかったんだよ。

俺は弁がたつ方じゃないんだよ。
おつむもちっちゃいんだよ。


嗚呼、秋本達にばれたらお小言だ。これは確実。
 

やっちまったと溜息をつく俺に、「ドンマイだな」島津が鼻で笑ってくる。

何だよお前、最初こそ俺のことを疎ましいって思ってたくせに、今頃コミュニティー能力を発揮してくるんじゃねえよこんにゃろう。

軽く相手を睨むけど、これも自業自得、嫌味も甘受するしかない。
 

膝に肘を置いて頬杖をつく俺は、満目一杯の景色を眺めて現実逃避。

神社の石段から見える景色は15年前とまったく変わっていない。石段の下の道路も、真っ赤なポストも、電柱もあの頃のままだ。

その景色が俺を慰めてくれるような気がする。
 


つんっと島津が俺の腕を突いてくる。
 

「透けてねぇな」でも影はねぇし、冷静に俺を観察してくる島津に、「実体はあるんだよ」と素っ気無く返す。

実体のある幽霊なんて聞いた事がないぞ、島津はコンビニで買った物を勝手に覗き込んで飯も食えるのかと聞いてくる。

食わなかったら腹が減る、諦め気味に言えば、変な幽霊だと笑われた。


で、さり気なくサイダーを差し出してくる。


人間扱いしてくれたことで俺の機嫌は上昇、「サンキュ」サイダーを受け取って喉を潤す。
炭酸のピリッとした喉越しが爽快だった。


「でもまあ、島津のおかげで助かった。指摘してくれなかったら、影のこと気付かなかったわけだし」


これからはもっと注意して行動できる。

とはいえ、完全に引き篭もるだけの生活になるんだけどさ、ポジティブに物事を考えつつ俺はネガティブに発言。

「なんで?」島津は率直な疑問を口にした。


「見たままじゃ幽霊だって分かんねぇよ。他人の影なんて滅多に注目しないし」


そんなこと言われてもバレた時が怖いしな。

今みたいに一々人に説明するのも面倒だし。


「島津だって半信半疑だろーよ、俺の話」

「んー、まあな。でも影ねぇからそうなのかなぁって、他人事みたいに思う俺がいるし」


そりゃ他人事だろうよ、俺のことなんだから。

今どうしているのだと聞かれ、俺は知人の家に居候させてもらっていると苦笑いを浮かべた。

15年前、俺は失踪している。
家族の下には戻れない。

こんな馬鹿げた話を信じてくれる知人の家に厄介になっていると呟いた。

普段は家に引き篭もってばっかりだと日常も教える。
近所に正体がばれるわけにもいかないから…、勿論学校に行けもしない。
 

「あれだな、それ…、つまんなくね?」

 
島津が同情してくる。

確かにツマンナイ生活だけど…、それもしょうがない。
割り切って生活しないとやってられないんだ。

とはいえ、俺も我が儘な子供だから、欲ってのが少しならず出てくる。
 


「俺、公園のグランドで、よく友達とサッカーしてたんだ。15年も前の話になるけどさ」


今はやる友達もいないし、友達は皆、アラサー。

俺と二倍も歳が離れちまって…、ちょいサッカーしてる奴等を見ていて羨ましく思ったんだ。

だから同じようにサッカーを見てる島津に声を掛けて言っちまったわけ。

『やりたかったらやってきたら?』って。

おかげで俺は島津に不審者な眼を飛ばされちまったわけだけど。
 

ちょい毒を含んで相手に伝えると、「うるせぇな」誰だって怪しいと思うぞっと脹れ面を作る。


多分ワケありでサッカーの輪に入れなかったんだろうから、それ以上は何も言わない。

不貞腐れている2011年の同級生に微笑する。
横目でこっちを見てくる島津は、ちょい決まり悪そうに頬を掻いた。
 

「なんか寂しいな。同級生がでっかくなってるって」

「……、そうだな。寂しい、かも。
知り合いが二倍も年を取っているって現実は本当に寂しい。驚きや衝撃はあるけど、時間が経てば寂しいかもな。友達と時間を過ごせなかったことが何よりも寂しいかも」


過ごせなかった分、俺という存在は忘れられてるんじゃないだろうか。

いやきっと忘れられている。俺が第三者なら、さほど繋がりを持っていない相手の事なんてすぐに忘れてしまう。

そう思うと今日(こんにち)まで俺を探し続けてくれていた人達がいるだけ、俺は幸せ者なのかもしれない。
 

同調してくれる初対面の島津にこうもペラペラ身の上を語れるのは、俺自身、同級生が恋しかったのかも。


俺の同級生達は心身成長し切っている。

秋本も遠藤も何処となく大人でお兄さんお姉さんオーラが醸し出されているんだ。同級生って感じじゃない。

頼り甲斐がある反面、物寂しい気もする。


今だって遠藤とは親友だし、秋本とはクラスメートに違いないんだけど、さ。
 


腰を上げ、ご神木の下に向かう。
 

木の幹に触れると一度だけ体が明滅した。

「うおっ?!」

頓狂な声を上げる島津に苦笑し、その幹を撫でてやる。


「お前のせいで苦労しているぞ俺は。どうしてくれるんだよ。ほんっと」
 

ざわざわっと木の葉が擦れた。
 
ご神木は音で俺を慰めようとしてくれる。
 
「恨んじゃないよ」

困ってはいるけどお前のことは好きだよ、ぽんぽんと幹を叩くとさっきよりも強く木の葉が揺れる。嬉しそうだな、お前。現金な奴。
 

「はぁああ、でもな。折角の日曜なのに、なあんにもできないのもなぁ」
 

落胆していると、「本当っぺぇな」けどお前、つまんなそうだよな……、島津が独り言を零し、ふと手を叩く。
  

「そうだ、健。ちょっち待っててくれないか」

 
いきなり名前呼びかよ。一応俺、先輩だぜ? ……まあいいけど。


「待つって?」

「いいからいいから」


逃げるんじゃねえぞ。
石段を二段越し下りる島津は、すぐに戻るからと俺の返事を聞かず、歩道に出てしまった。

おいおいおい、俺、あんま時間がないんだぞ。遅くなると秋本が煩いんだって。


心中で悪態を付いても一緒。

仕方がなしにキャツを待つこと10分程度、島津は行きと同じように駆けて戻って来た。


手に持っているものは砂埃で色がくすんだサッカーボール。

自宅に取り戻ったようだ。


「来いよ」命令してくる島津は短髪を揺らして、二段越しに石段を上がっていく。


「お、おい」俺の戸惑いなんてお構いなし、脇を通り抜けて早く早くと急かした。
 

誘われるがまま島津と段を上がる俺は、神社の中でもわりと広い場所まで出る。

「パス!」これまた島津が突拍子もなく地面に落としたボールを蹴っ飛ばしてくるもんだから、「うをっづ!」俺は奇声を上げてしまった。

反射的にふくらはぎで受けてしまう。
 

「し、島津」

「こっちにパスしろって健。それとも、お前、下手くそなのか? サッカーしたいお化けなのに?」
 


にゃ、にゃろう…、言いやがったな。


挑発してくる島津に、「吠え面かくなよ」鼻を鳴らして相手にパス。

それなりの飛距離に、まずまずだとご感想を寄越して下さった。

まったくもって小生意気な後輩だこと。

俺が本気になったらこんなもんじゃねえぞ。


上手い類には入らないけど、下手な類にだって入らないんだからな!
 

ムキになった俺は買った代物を置くために、一旦ご神木下へ。


荷物を置いて踵返すと、地面を蹴ってサッカーボールを奪うために駆け出した。

逃げる島津を追って、追って、追いかけて、ボールを奪って奪われて。

走る妨害する、パスをする返す、神社を囲っている壁にシュートする。


嗚呼、久々の快感に俺は笑顔を零した。
一人よりは二人だな、やっぱ楽しい。

吹く風に乗って走る俺と島津は壁にシュートを決めてハイタッチ。

青空の下では俺達の笑声が満ちた。
 

「なんだよ、やっぱまずまずの腕じゃんか。健」

「うるせぇ。お前も変わんないって島津」
 

皮肉り合ってまた一つ笑声、久々に友達と遊んだって感じがするのは島津が俺と同い年だからだろう。

肉体的にも精神年齢的にも同い年の島津と、こうしているだけで心が躍る。
 

時間も忘れて島津とサッカーをしていると、「あ。此処にいたんだ」神社に響く第三者の声。
 

顔を上げれば、学ランを着た男子が島津に駆けて来た。どうやら島津と知り合いらしい。


いかにもガリ勉オーラを漂わせているそいつは、とろそうな駆け足でこっちにやって来る。

「よっ。天音(あまね)」

片手を挙げて挨拶する島津は塾は終わったのかと、相手に質問。

うんっと頷くそいつは、俺の存在に気付いて「お友達?」首を傾げた。

「健ってんだ」軽く俺を紹介し、島津はそいつのことも紹介してくれた。
 

「こいつ、永戸天音(ながと あまね)。幼稚園からの付き合いなんだ」

「永戸か。宜しくな」

 

 
「宜しく」目尻を下げてくる永戸は、俺達にサッカーをしていたのかと質問。


頷く島津に永戸はまだ喧嘩しているんだと決まり悪そうに微苦笑を零した。

仲直りしていいんだよ、永戸はおずおずと島津に物申す。

僕のせいで久野達と喧嘩したままなんてばつが悪いし、永戸の言葉に島津は不機嫌に鼻を鳴らした。

「俺もお前も悪くねぇ」

謝るのは向こうだとぶすくれている。
 

彼等の会話で話が見えてきた。
 

曰く、数日前にした体育の授業で島津達は久野って同級生達と対峙しているらしい。


よく話を聞けば、見るからに運動音痴そうな永戸が足を引っ張ったせいで、バスケの時間、揉め事に発展したとか。

執拗に永戸が責められていた光景に堪えられなくなった島津は、持ち前の正義感を爆ぜさせ、誰にだって得意不得意はあると反論。

幼馴染みの肩を持ったために、スポーツマンの久野との仲に亀裂が入ったそうな。
 

お互いにスポーツ大好きの久野と島津は普段、とても仲が良いみたいだけど、喧嘩したことによって島津は久野やその仲間と遊ばなくなったらしい。


なるほどな、だから島津は公園で遊んでいた男子達の輪に入らなかったのか。

ここからは俺の憶測だけど、島津の奴、内心では仲直りしたいんじゃないかな。内心では。


でも、永戸のことがあるから引くに引けなくなったってカンジ。


じゃないと公園の滑り台から、飽きもせずサッカーなんて眺めるかよ。


負い目を感じているのは永戸で、「悪いのは僕だし」と項垂れている。

構わず仲直りして欲しいってのが永戸の願いみたいだ。

「馬鹿」お前は悪くねぇって、島津は永戸を励ました。

そして気にするなとも言った。
運動音痴だってのは誰もが知ってるし、その分、勉強で助けてもらってる。久野だってお前にいつも助けられてるのに、それを忘れて責め立てた。

だから許せなかったんだと島津は苦笑い。


何より幼馴染みが執拗に悪に仕立て上げられている事が見ていられなかったのだと、島津。

思った以上に正義感の強い男らしい。