元気にグラウンドに走って行く彼を見て、誰なんだろう?と思った。


そのまましばらく目で追っていて、彼を見ていると心臓がドキドキした。

何だか痛いくらいでその痛さに一瞬焦ったけど、違う痛み。


『恋』をした痛みだと生まれて初めてわかった。



次の日、昨日の出来事を明日香にそっと打ち明けていると、偶然廊下で彼を見かけた。


「あの人!」思わず指をさすと、明日香はあっさりと彼の存在を教えてくれた。


「3組の『高柳 蒼』?サッカー部でしょ、アイツ」



『高柳 蒼』一瞬で頭の中に名前がインプットされた。

3組・・隣のクラスだったなんて、どうして今までわからなかったんだろう。

通り過ぎる彼を横目でそっと見ると、彼の周りだけが色が付いて見えた。




13歳のあの日。

世の中は不公平で平等じゃなくて、神様なんか存在しないって知ったあの日。

風景が一気にモノクロになったあの瞬間から3年以上。



あたしの世界に『色』を戻してくれたのは紛れもなく『高柳 蒼』だった。



茶色い柔らかそうなフワフワとした髪は今時の男の子らしいヘアスタイルで、

ちょっとぼんやりしてそうな幼い顔で、

でもくっきりとした二重の優しいそうな瞳で、

耳にはピアスが2個ついていて、

シャツの上に着ているベストは学校指定のイモみたいなベストじゃなくて、

踵を踏んだ色のくすんだ上履きで、

『今時の高校生』なごく普通の彼は、周りがカッコイイと騒ぐ他の男の子よりもずっとあたしには眩しかった。

昨日見た優しそうな笑顔で友達と喋っている声は、

休み時間でやかましいはずの廊下の中でハッキリと聞こえる。


あたしに『色』をくれた彼はごくごく普通の男の子だった。