深夜1時に家に帰ると癖の様に「ただいま」と言ってしまう。

ルウコの癖。誰もいなくても「ただいま」と「おかえり」を言う事。


着替えて水のペットボトルを飲み干すとため息が出た。


しばらく1人だけの家でソファに座りながらぼんやりしたりタバコを吸った。


それから通帳やら貴重品が入った棚を開けて白い封筒を出した。

重ねて黄色い封筒もあるけど、それはルウコが亡くなる前にツナミに宛てた手紙。大人になっても読める様にルウコのキレイな文字で『繋美へ』と書いてある。


封筒をローテーブルに置いて缶ビールを出してしばらく見つめた。

今まで色んな柄の封筒の手紙をもらってきたけど、ルウコからの最期の手紙は真っ白い封筒と便箋。


『高柳 蒼様』と封筒の表には書いてあり、裏返すと『高柳 流湖』と書いてある。


亡くなる数日前にツナミに手紙の話をした時に「みんなで手紙を書く」と約束をして、ツナミから理解不能な絵が描いた緑の手紙をもらった。ルウコにはピンクを渡していた。あの頃のツナミは4歳。文字を書けないから絵を描いたらしい。

ボクの絵は『仕事をしている父ちゃん』でルウコの絵は『ママと公園で遊んでいる自分達』だった。

ルウコは未来を見据えてツナミに手紙を書いたけど、ボクは書かなかった。

いや、ルウコに書くのが気持ちとしては精一杯で書く余裕すらなかった。


高校生の頃、下駄箱に入っていた手紙は卒業すると手渡しになり、結婚したら寝室の棚の上に置くのが習慣になっていて、この最期の手紙が初めて面と向かっての交換になった。


「ありがとう」ルウコは手紙を嬉しそうに抱き締めてくれてボクがいないうちにすぐに読んだらしいけど、ボクは怖くて読めなかった。

最期だとわかっていたから。

この手紙を読めたのは一周忌の日の夜だった。


手紙を読んだ途端に色々な出来事が思い出され、やけに生々しくて涙を止める事が出来なかった。


あれから数回この手紙を読んだけど、約一年振りに今、ボクの目の前にある。


タバコをもみ消して、封筒から手紙を取り出し目で追った。