仕事を早めに切り上げて再び柏木家を訪れると、綾乃さんが笑顔で迎えてくれた。
「ソウちゃん、お疲れ様。お寿司でよかった?帰りは代行車で帰りなさいよ」
リビングに入ってツナミを見るとニヤっとした顔をして、ルウコがお気に入りだったアニメのDVDを見ている。
このアニメも気が付けば連載15年、仲間が5人から8人に増えている。
「いや、大丈夫です。ツナミですか?お寿司って」
「え?違うわよ?ソウちゃんとツナミが来るから久し振りに出前しただけ。それより飲むの付き合ってあげて?お父さんウキウキして待ってたのよー」
テーブルに座るともう顔が赤いルウコの父親が「ソウちゃん!飲んで飲んで」とビールを注いでくる。
昔よりも白髪が増えて、酒も弱くなったルウコの父親を見ると年月を感じる。
来年、この人も定年退職をする。まぁ、再雇用で残るらしいけど。
「じゃあ、いただきます」
乾杯をしてビールを飲むと、綾乃さんがツナミにケーキを出した。
「綾乃さんプリンも食べたいなー」
「ツナミ!ワガママ言うなよ」ボクが注意しても知らん顔をする。
「ありますよー、綾乃さんは準備がいいので買ってきてるよ!ツナミは本当にプリンが好きなのよね、何でかしら?」
ケーキを出しながら首を傾げている。
ツナミがプリンに固執する理由。
ルウコが最後の発作の時に一緒に作っていたからだ。
あの時、綾乃さんも一緒にいたけど忘れてしまっているみたいだけど。
ツナミはあの後から泣きながら「プリン」を連発して深夜のコンビニに何回行ったかわからない。
『ママ』の家での最後の笑顔はプリン作りの最中だったから固執している。
「さぁ?ルウコも好きだったから。好物が似たんじゃないかな?」
ボクが言うとルウコの父親はたちまちしんみりとしてしまった。