「あ、字が斜めった」
婚姻届けを記入しながらソウちゃんが呟いた。
「えー、書き直してよ」
「別にいいじゃん。役所の人間が見るだけなんだから」
「ダメ!あたしこれコピーする気でいるから。ほら書き直し」
新しい婚姻届を渡すとブツブツと文句を言っている。
「コピーとかしていいの?違法とかじゃねーのかな?写メでも別にいいじゃん」
「何?」
「はいはい、何でもありませんよ」
やっと出来上がった婚姻届を満足な気分で眺める。
ずーっと見ていたい位だ。
そんなセンチメンタルな感傷のあたしとは全く違うソウちゃんはタバコをもみ消して、残っているコーヒーを飲み干した。
「ほら、役所いくぞ」
カフェでゆったりしながら婚姻届を書きたいな、っていうあたしの願望には付き合ってくれたけど、ゆったりなんてしてない。30分もいないし。
「えー、もう行くの?」
「行く。この後、マンションに家電入るから急がなきゃ」
伝票を手にしてから、あたしのバッグを持ち上げた。
不満そうなあたしにちょっと苦笑いをしてからボソっと呟く。
「奥さん、急いでもらえますか?」
『奥さん』だって。その言葉、ニヤけるじゃん!!
あたしの手を取って「行くよ」と歩き出す。
「ちょっとお腹が・・・」
随分と大きくなったお腹をさすりながらあたしも歩き出す。