「今日はもう帰ろう」ソウちゃんが言って、あたしの家まで車を走らせた。


あたしも俯いたまま頷く事しか出来なかった。


ソウちゃんにはソウちゃんの人生がある。

前にもらった手紙には、「もう少し待ってて」って書いてあった。

その時はすごく嬉しくてソウちゃんの為なら何年でも命が続く限り待っていられると思った。



車の中であたし達は無言で、2人が好きなバンドの新譜がエンドレスでかかっているだけだ。


あたしが甘かったのかもしれない。


ソウちゃんならビックリはするだろうけど、すぐに喜んでくれるって思っていたから。

身体の事を心配しながらも「嬉しい」って笑顔を向けてくれるって勝手に想像してた。

でも、現実を考えるとソウちゃんはあたしと「この子」の人生を21歳で背負う事になる。

だから「給料」なんてあたしには無縁な事を言いながら考えてんだ。

社会人のソウちゃんと学生で将来も何も考えていないあたしの価値観の違い。

美容師になるのだって全て「あたしの為」に考えた事だ。

高2の夏から付き合いだして、ソウちゃんはそれからずっとあたしを優先させて自分の事なんて二の次だ。

感謝はずっとしてるけどあたしはそれに甘えてただけだ。

そしていつの日か、それさえも「当たり前」になっている。


恥ずかしくなった。

自分本意なあたし自身に。



「連絡するわ。身体、ちゃんと注意してね」


車を降りるとちょっとだけ笑顔を見せてソウちゃんは帰ってしまった。



玄関に入ると、高校受験を終えたばっかりのルミが顔を出した。


「あれ?ソウちゃんと出かけたんじゃないの?」


ルミの言葉を無視してあたしは部屋に入った。