「何その顔。嬉しくないの?あたしは産むつもりなんだけど」
「嬉しくないなんて言ってないじゃん」
「でも、何も言わないでしょ?あたしはソウちゃんがどう思ってるのか聞きたいの!」
「怒鳴るなよ。オレだって色々考えなきゃいけないんだよ、まずルウコの身体が出産しても大丈夫なのかとか、生活出来るかな?とか・・・」
淡々と喋るソウちゃんにあたしはイライラした。
「あたしは単純な事を聞きたいだけ!嬉しいか困ってるかそのどっちか!」
怒鳴るあたしを今度はポカーンとした顔で見る。
ソウちゃんのさっきからの表情は『鳩が豆鉄砲を食らう』って言葉がピッタリ。
目が点になっている。
「嬉しい嬉しくないよりビックリした」
(でしょうね、顔に書いてるよ。『オレ、ビックリしてます』って)
益々イライラする。
自分でも何でここまでイライラするかがわからない。
明日香だってビックリして慌ててたんだから当事者のソウちゃんがビックリしないワケがない。
頭ではわかってはいるけど、言葉を特に発しないソウちゃんにたまらなくイライラする。
「とにかく、あたし産むからね!ソウちゃんが反対しても、例え産む事で自分が死んでも産むから!文句ある?」
「自分が死ぬとかあっさり言うなよ!」
今度はソウちゃんに怒鳴られてあたしがビックリする番だ。
「簡単に死ぬとか口にすんな!それに子供を産む事も別に反対してねーだろ!」
ガンっと思い切りハンドルを殴ってから、ため息をついてハンドルに頭を乗せた。
あたし達の間で「ルウコが死ぬ」はタブーな言葉だ。
あたしはそれをすっかり忘れてしまっていた事に気が付いた。