ソウちゃんへ
この手紙を出すのはいつになるかな?
今は高校2年の夏休みです。
書いてるこの手紙があたしが入院した時用です。
フェス楽しかったね!!
あたしライブって生まれて初めて見たよ。
ほら、親がそういうものを見てのOK出してくれる年齢にはあたしは既にこの病気を抱えていたから。
やりたい事がいっぱいあるのに出来ないって諦めてた事ってたくさん。
でも、ソウちゃんといると諦めてた事がたくさん出来てすごく不思議な気持ちと嬉しい気持ち。
ソウちゃんといると何故か何でも出来る気がします。
大事な人が隣で支えてくれるってすごく不思議だけどありがたい。
ソウちゃんは世界一大事な存在だけど、魔法使い?サンタさん?って思う時があります。
一緒にいるとワクワクする事や楽しい事がいっぱいあるから。
だから余計に悩む時があるの。
あたし負担じゃないかな?って。
これは入院した時用の手紙だから、今頃ソウちゃんは心配してるはず。
あたしのせいで悩んでいるはずなの。
ごめんね、いつも思っている。
ソウちゃんはごめんねって言うと怒るけど、やっぱりどうしてもそう思っちゃうよ・・・。
あたしの事、負担じゃない訳がないと思う。。
親でさえ負担に思うんだから、高校生のソウちゃんにはもっと負担なはず。
でも、ワガママなあたしは「もういいよ」って離す事が出来ない。
だからごめんねって思うしか出来ないんだよね。
あたしが何とか無事に生きれて二十歳になった時ってどうなってるんだろう?
やっと「大人」「成人」になる頃のあたしとソウちゃんは一体どんな人生を送っているのかな?
まだ学生かな?
それとも社会人?
・・・一緒にいるのかな?
あたしは一生一緒にいたいけど、ソウちゃんはどうなんだろう・・・。
たまにそういう不安を抱える時があります。
あたしにはソウちゃんより素敵な人が現れる事は絶対ないの。
断言出来る!
あたしがどこまで生きれるかわからないけど、最期に手を握ってくれる人はソウちゃんであってほしい。
縁起でもないね(笑)
あたし達の未来はずーっと続く事を願っています。
入院してるはずのあたし。
大丈夫、ソウちゃんがいる限り乗り越える。
どんなに辛い発作でもソウちゃんと一緒にいたいってこの気持ちがあれば、絶対乗り越えるから。
だから安心してね?
あたしはソウちゃんが隣で笑ってくれるから大丈夫だからね。
だから、今は手を握っていてね?
大丈夫って一緒に祈ってね?
ルウコより
「め・・・メリメリ・・・?」
「うん。一言で言えばメリメリーって音がして激痛って感じ」
「メリメリ・・・。やっぱり怖い!!」
「大丈夫だって。そのメリメリを越えればスポンって入るから」
ジュースを飲みながら明日香は笑って言っている。
ここはあたしの部屋。
明日香が言う「シンデレラ城」でしている会話は卑猥な話。
明日、ソウちゃんと『お泊まり旅行』をする前に明日香から初体験のレクチャー中。
「メリメリでスポン・・・。あ、もしかして全部見える!?」
「見えるってソウちゃんの裸?」
「そ、それもそうだしあたしのも・・・」
「まぁ・・・ルウコは目をつぶってれば見えないけど、ソウちゃんからは全部見えるんじゃない?」
「えー!?貧乳なのに、あたし!!ガッカリされそう・・・」
「ソウちゃんって巨乳好きなの?」
「知らないよ!!」
そんな会話をしているとドアがノックされる。
明日香とギョッとしているとお母さんが笑顔でケーキを持って来た。
(き、聞かれてないよね?)
ドキドキしながらお母さんを見ると「何?」と不思議そう。
とりあえず聞かれてはいないみたいで安心する。
「明日香ちゃん、明日ごめんねー。ルウコがお邪魔していいのかしら?」
「いいよー。ルウコに課題見せてもらうし、暇なんで!」
明日は明日香の家に泊まり込みで課題をやるって事で話を合わせている。
「明日香ちゃんのお母さんに電話しておこうかしら?」
顔に手を当てて考え中。
「ルウコママー、明日はうちのお母さん夜勤だから。大丈夫だよ」
明日香のお母さんは外科のバリバリの看護士さん。
お母さんが出て行って2人でふーって息を吐いた。
「明日香の信用は柏木家では半端ないんだよね」
「知ってるって。だから今、課題やってるんだし」
ベッドの下に隠してた課題を2人でやる。
ってより明日香があたしの課題を写してるだけ。
アリバイの協力報酬だから別にいい。
「明日、何着て行こうかなー?」
クローゼットを開けて考える。
「まぁ、記念日なんだからたまには違うテイストで行けば?あ、これ可愛いじゃん」
明日香が出したのはたまたまセールで買ったアジアンなワンピース。
たまにはいいかなーって思って買っただけのクローゼットの肥やし。
「これ?大丈夫かなー」
ワンピースをあたしに当てて「大丈夫!可愛い」と明日香は笑顔。
とにかく明日は、女、柏木流湖の一大イベント!!
こっそり明日香と下着まで買っちゃって・・・。
(あたしやる気満々なエロ女じゃない!?)
「ソウちゃんって初めてじゃないんだよね・・・」
ため息をつきながら荷物を詰めた。
「17で童貞とかって逆にキモイんだけど」
「そういう問題じゃない!だって初めてって誰でも思い出あるでしょ?」
「男もそうなの?あたしの彼氏も別に初めてじゃなかったけど、気にした事ないよ?」
「でもさー・・・」
この間、電話で確認したら
「どうだろうな!アハハハ!!」
ってウソつけない人だなーって感じだった。気を遣っての「どうだろう」だろうけどバレバレですよ、高柳くんって思ったし。
まぁ、彼女がいたんだから初めてなワケないし。
「ソウちゃんって何気に上手そうだよね?」
明日香に言われてビックリする。
「何!?上手いとか下手ってあんの!?」
「あるでしょー。相性もあるんだし。あたしの予想じゃソウちゃんは上手そう、幹太は下手そう」
ガハハハって明日香が笑う。
「幹太くん下手って・・・。そういえばミサちゃんとどうなったのかなー」
幹太くんが恋をしている小学校の同級生のミサちゃんを思い出す。顔は知らないけど。
「あー、そろそろミサも陥落すると思うな。『幹太って優しいんだ』って言ってたから」
「マジ!?頑張れ、幹太くん!」
「その前にあんたはソウちゃんと頑張って」と言われてまたドキドキした。
当日、明日香のオススメのペンションの部屋に荷物を置くと、「疲れた」とソウちゃんはソファーにドサっと座った。
電車で1時間ちょっとの隣の市にあるこのペンションは見晴らしがすごくいい。
でも長い坂道が続いていて、途中まで頑張ったけど「ギブ!!」ってソウちゃんが弱音を吐いて、途中からタクシーで来た。
「サッカー部なのに体力ないのねー」
あたしが呆れて言うと、
「昨日、練習試合だったの!!だから朝からグッタリ」
とソファーでグターっとしている。
そんなソウちゃんはほっといて、隣の部屋の寝室に行くとダブルベッドが一つだけ。
自分で予約したんだからわかってはいるけどちょっとドキドキした。
(やる気満々なのは事実だけど・・・あたし変態かも)
顔が赤くなるのをどうにかしようと大きな窓を開けた。
「わぁ・・・キレイ・・・」
窓からの景色は坂道の下に街が見えてその向こうには海が広がっている。
夜景が売りだから夜はもっと素敵なんだと思う。
建物も建築100年の古い洋館を改築しているから何だか昔にタイムスリップした気分になる。螺旋階段とか。
「ソウちゃん!こっちに来てー」
声を掛けると「どうした?」とソウちゃんが寝室に入ってきた。
そして窓の外を指差すあたしを見ないで部屋に入った瞬間にギョッとした顔になる。
「ソウちゃん?」
「ルウコ!!ベッドがない!!」
ベッドを指差しながらわけのわからない事を言っている。
「え?あるでしょ?何言ってるの?」
首を傾げると慌てた顔でベッドを何度も叩いている。
「だから1個しかねーよ!!」
「あぁ、そういう事ね。あたしがダブルで予約入れたからそうでしょ。一緒に寝たいもん」
慌てるソウちゃんが面白くて笑ってしまった。
「はぁ!?」
バタバタと赤くなって慌てているからどっちが初めてなんだかわからない。
(もー、あたしなりの覚悟なんだからわかってよ)
呆れながらソウちゃんに言い放つ。
「ソウちゃん!!男でしょ!彼女がここまでしたんだから腹括りなさいよ!今日するったら絶対するんだから!!」
「・・・は・・い・・・」
あたしの言葉に戸惑いながら頷いた。
(もー、泊まりで出かけるんだからしっかりすれよ!!わかれよ!)
「本当に大丈夫なのか?そんな事して発作とか・・・」
ブツブツと何か言ってるソウちゃんの腕を引っ張って、窓の方に連れてくる。
「すごくキレイな景色じゃない?後でお散歩行こうよ」
「散歩?・・・あぁ、うん。行くけど・・・本当にいいのかなぁ」
「何が?散歩はいいでしょ、それにあたしは大丈夫よ!覚悟も出来てる」
「そうですか・・・」
頼りない顔で言われるとこっちだって不安になる。
「不安にさせないで!経験者でしょ」と言うと複雑な顔になった。
それでも相当心配なのかベッドに座り込んでまだブツブツ。
「ルウコ初めてだし・・・女の子はすげー痛いらしいから、それで発作とかになったらどうしよう・・・」
(やっぱり明日香の言う通りメリメリって痛いのかな・・・)
ちょっと弱気になりそうな自分を奮い立たせる。
「ソウちゃん、あたしの病気に『激しい運動』ってあるから心配してるんでしょ?セックスは激しい運動かどうかわかんないけど、あたし出産も出来るのよ?先生に出産は出来ますって言われるの。それってセックスしなきゃ成立しないんだから大丈夫だよ」
隣に座って話すあたしを不思議そうな顔で見てる。
「聞いてる?」
「うん、聞いてるけど・・・あの『柏木さん』の口からセックスとか出たり、したがったりするのが不思議だなーって」
その言葉であたしは赤くなった。
(あたし、変態じゃん!絶対ソウちゃん、あたしを変態だと思ってる!)
ソウちゃんは多分天然で何も考えないで言った言葉だろうけど、端から見ればやる気満々だよ。
「ほら、景色がキレイだって言ってるの!散歩!!ご飯の前にたくさん運動していっぱい食べれるように散歩行こうよ!」
腕を引っ張って立たせると、ようやくソウちゃんがいつもな感じのニヤリと笑った。
「ご飯の後も『運動』するけど、今から体力使っていいんですか?」
「なっ・・・!!バカ!変態!!」
「変態はどっちかなー?オレじゃないと思うけどね」
これ以上何か言うと絶対からかわれるのがわかる。
「早くー、散歩!!」
とにかく寝室から脱出した。
「美味しい!!」
オーナーに「カップルにはオススメ」と案内された夜景がキレイな席でご飯を食べる。
ご飯も海鮮を中心に肉料理もサラダも見た目も豪華だけど味もすごく美味しい。
「ルウコってよく食べるよな」
向かえの席でソウちゃんが言った。
「え・・・。食べる人嫌い?」
「いや、食べない子の方が嫌い。」
「良かったー」
「でもさ、薬飲んでるとはいえそんなに食っても大丈夫?これ塩分もカロリーもかなりあると思うけど」
ご飯の前にしっかり薬を飲んでいるけど、心配らしい。
「大丈夫よ。それなりの薬が出てるし、いつもいつも老人食みたいの食べてたら頭おかしくなるもん」
「まぁね〜。でも、これでマックで固まった謎がわかった。あの時は薬なかったんでしょ?」
「うん。でも利尿剤はあったからそれ飲んで助かったよ。焦ったけどね、どうしようって」
あたしが苦笑いで言うと、ソウちゃんは不思議そう。
「でも、利尿剤っていつ飲んだの?わかんなかった」
(トイレの水で飲みましたとは言えない!!)
「実はこっそり飲んでたのよ。ほら、食べよう!」
知らなかったとはいえ、過去のあんな失敗やこんな失敗は知られたくはない。
言ったら「すげー」って笑われるだろうし・・・。
デザートが来て、あたしの目が益々輝くと、
「甘いもの苦手」とソウちゃんが自分のケーキもくれた。