「バイバイ」
早瀬君は手も振らずにそう言って、自分の家の方向へ帰って行った。
「……」
私は、まるで電池が切れかけのおもちゃのように、自分の家に入った。
今日一日を振り返って、私には考えるべきことや、悩むべきことや、整理するべきことがたくさんあったはずだった。
それなのに、頭はそれを勝手にシャットダウンしてしまった。
こんなにも自分が理解力の無い人間だったとは。
こんなにも自分がショックから逃げる人間だったとは。
……我ながらびっくりだ。
お母さんが私の顔を見て、
「あら、可愛いわね」
と言ったけれど、それはテレビの中のアナウンサーが喋っているように、どこか遠いところから聞こえた。
正直、その夜何を食べて何時に寝たのか、全く……覚えていない。