「ごめん」
低く落ち着いた声と共に、大きな手が頭に乗せられる。
伝わってくる温もりが、自然と涙をとめてくれた。
「強く言い過ぎた。ごめん。わかったから、もう泣くな」
歪んだ視界には、相沢くんの笑顔がある。
「ほら、そんな顔じゃ教室入れねーぞ」
「は、はい……」
ハンカチで涙のあとでもしっかり拭いて。
もう平気だと笑顔で伝えると、相沢くんも笑ってくれた。
「あのさ、柏木となんかあったらすぐに言えよ?」
「あ……はい。ありがとうございます」
お礼を言うと、相沢くんは「おう」とだけ言って先に教室に入っていった。
その背中を見て、私は自分が思ってる以上に、相沢くんを好きになっていたことに気づいた。
泣いてしまうほど、相沢くんには柏木くんとのことを変に誤解されたくなかった。
私が好きなのは、相沢くんだから。
少し前までは、人と話すことさえできなくて、クラスでは何でも頼みを聞いてくれる便利な人間だった私が……。
人の前に立って、みんなをまとめるような委員会に入り、同じ委員の男の子とよく話すようになって、そして恋をした。
私でさえ、こんな経験をすることになるなんて思わなかった。
誰かを好きになって、必死になってる自分はちょっと不格好だけど、今までの臆病な自分よりも全然いいと思えたんだ……。