相沢くん……。


無意識に掴んでいた相沢くんの制服の裾。


柏木くんに対する恐怖なのか、ただこの状況に緊張しているだけなのか、それとも自分のせいでこうなってるからか、自分でも気づかないうちにその手は震えている。


相沢くんはそれに気付いてくれたのかもしれない。



「相沢くん!」



その時、張り詰めた空気をさいて、凛とした声が階段の上のほうから響いた。


「あ……野川先輩」


「もう!遅いと思ったら、三人とも何してんの!早く戻りなさい、作業が進まないでしょ!」


野川先輩により、さっきの話はうやむやな感じで終わってしまった。


「……香波」


「あっ……相沢くんっ」


な、なんか怒ってる?


私の手を強く握って、さっさと歩いていく。


後ろを見ると、悔しそうにこっちを見てる柏木くんと目が合ってしまい、私は慌てて前を向いた。


柏木くん、何であんなこと言ったんだろう……。相沢くんは、きっと私のことなんて何とも思っていないのに……。


あ、また。チクリとしたこの感じ……。
私、悲しいのかな?さっき相沢くんに守ってもらえたんだから、嬉しいはずなのに。


みんながいる教室が見えてくると、相沢くんはやっと立ち止まってくれた。


「あ、相沢くん、すみませんっ」


「何で謝ってんだよ」


「えっと……その……」


確かに、何で私は謝ってるんだろう。