香波と呼ばれたことで、心臓はさらに跳ね上がった。


「あ、あの相沢くん?桜です……」


〈ははっ、わかってるよ〉


ドキドキドキドキ。


さっきまで緊張してなかったのに、相沢くんの声を聞いた途端、うまく言葉が出てこなくなる。
私からだってわかってるだろうに、何だか改まって自己紹介してしまった。


〈どうしたの?香波から電話なんて珍しいな。文化祭関係?〉


「いや、そうではなくてですね。えっと、相沢くんに報告がありまして……」


〈報告?〉


顔は見えていないのに、「そうですっ」と答えながらこくこくと頷き、私は今日の出来事を話した。


「あの、私……友達ができました」


〈えっ!まじで!?〉


相沢くんの声のトーンが上がるのがわかった。


「同じクラスの山田亜紀恵ちゃんです。今日、放課後カフェで一緒にお茶してきたんだよ」


〈そっか!よかったな、香波!〉


「うん……!」


嬉しそうに微笑んでくれる相沢くんの姿が思い浮かんできて、私もついつい頬が緩んでしまう。


〈俺、なんか自分のことみたいに嬉しいよ。香波も成長してきたんだなぁ……って、俺保護者みてぇだな〉


「ありがとう、相沢くん……」


〈俺は何もしてないよ〉


ぐっと、携帯を握る手に力がこもる。


ドキドキが相沢くんに聞こえてしまいそうなほど心臓が大きな音をたてている。
でも、伝えたかったことがあるから、それに負けないように精一杯言葉を紡いだ。