山田さんは、驚いたように一瞬目を丸くしたけど、すぐに優しい笑顔を浮かべてくれた。


「もちろんオッケーなんだけど、友達になるんだったら“山田さん”って苗字で呼ばれるのは、なんかよそよそしくてやだなぁ~」


「え!? えっと、じゃあ、あ、亜紀恵ちゃん……?」


「アキでいいよ!」


亜紀恵だからアキか!
私が、誰かのことをニックネームで呼べる日が来るなんて……。


「えと、アキちゃん、私のことも……」


「うん!よろしくね、香波!」


よ、呼び捨て……!憧れの呼び捨て!
友達ができたら、ずっと名前で呼び合うのが夢だった。それだけでも嬉しいのに、しかも私なんかがニックネームで呼ばせてもらえるなんて。



私……本当に友達ができたんだ……。



「でさ!話戻るけど、相沢くんとはどうなの……って香波!? どうしたの?」


おろおろと慌てているアキちゃんの姿が、歪む視界の中で見える。


熱いものが頬を流れて、やっとそれが涙だと気付いた。


「あっ……ごめんなさい……。私、嬉しくて……」


「もう、大袈裟だなぁ。ほら、ハンカチ」


自分で拭けるのに、テーブルの向かいからアキちゃんが手を伸ばして私の顔を拭く。
嬉しいけど、ゴシゴシが強すぎてちょっと痛い。


でも、私の涙をぬぐってくれる存在ができたことが本当に嬉しくて、友達ができたんだと改めて実感して。


涙は次から次へと溢れて、止めることなんて出来なかった。