名前を呼ばれ振り返ると、そこにいたのは文実委員会委員長の野川先輩だった。


「の、野川先輩……!」


野川先輩は絵に描いたような素敵完璧女子。


運動も勉強もできて、明るくて優しくて、おまけに可愛い。


どの生徒からも人気のある人。


そんな人を前にして、私は緊張で固まってしまった。


「こんなところで会うなんて偶然ね。もしかして文化祭の買い出し?」


「あ、はいっ!」


「あなた達の“性転換喫茶”、すごい企画って生徒会の人が驚いてたわよ。
私も時間がある時、お邪魔させてもらおうかしら」


野川先輩がふわりと笑って言うものだから、思わず同性の私でもドキッとしてしまう。


「は、はいっ!あのっ、ぜひいらしてください!」


それから野川先輩は、長い髪を揺らして相沢くんのもとに歩み寄る。


そして、



「浩也くんのメイド服姿、楽しみにしてるわね」



そう言って私に向けたものとは違う笑顔を相沢くんに向けた。


“浩也くん”――。


名前で呼んでたぐらいだから、ふたりはもともとお知り合いだったのかな。


あれ……何だろう、この感じ。


「俺は裏方の予定っすから」と苦笑する相沢くん。


その仲良さそうなふたりの姿が、屋上で見た相沢くんと女の人の姿に重なった。