「相沢君、これ着てみて下さい」
私がフリッフリのメイド服を差し出すと、相沢君はあからさまに嫌そうな顔をした。
「な、何で俺が……」
「男子が着れるサイズのものか、ちゃんとチェックしないと」
「そりゃそーだけど……」と、ぶつぶつ不満を漏らす相沢君。
あんなに賛成していた彼も、いざ“女装”を目の前にすると、理性みたいなものが働いたらしい。
さすがにきつい、と。
「何で俺が……。当日は裏方のつもりなのに」
「ダメです。当日はどうであれ、買い出しは文実委員の大事な仕事ですよ」
相沢君はため息をついてから、観念したのかおとなしく試着室へと入っていった。
あんなハプニングもあったものの、わたし達はさっそく文化祭に向けて買い出しを始めていた。
教室の飾り付けに使えそうなものだけでなく、いろいろなパーティーグッズ、メイド服とタキシードも売っていて、しかも作りが意外にも本格的なものばかり。
相沢くんの女装姿がどうしても見たくて、最もらしい理由を並べてメイド服を押し付けた私に、彼はしぶしぶながらも素直に従ってくれた。