突然の相沢くんの言葉にびっくりして、うまく言葉が出てこない。
「えっと……相沢く、」
「なーんてな」
「……え?」
やっとの思いで名前を呼ぶと同時に、相沢くんの妙に明るい声が重なった。
「よし、終わった。そっちは?」
「え……あ、終わってます……」
上の空で答えると、相沢くんは椅子から立ち上がる。
自分が作った冊子と私が作った分の冊子を持って、「練習戻るついでに先生のとこ持って行っとくから」と残りを引き受けてくれた。
「じゃあな、遅くならないうちに早く帰れよ、桜さん」
“桜さん”
今までと変わらない呼び方。
「あ……はい。ありがとうございました、……相沢くん」
ぺこりと頭を下げると、相沢くんは軽く手を振って教室を出て行った。
“香波ちゃん”と、柏木くんに呼ばれた時は、びっくりしたけど特に何とも思わなかったのに。
“桜さん”じゃなくて、相沢くんに名前で呼ばれたら、と考えるだけで心臓の鼓動が速くなる。
……あれ?おかしいな、私。
私が名前で呼ぶようになったら、相沢くんも“香波”って、名前で呼んでくれるようになるのかな……。
なんて、変なことを考えてる自分を不思議に思いながら帰路についた。