「あ、相沢くん……あの……」
「“相沢くん”じゃなくて名前で呼んで。あとこれから敬語も禁止」
「ええっ!」
敬語は癖というか人見知りすぎて昔からこんな話し方なのに……そのうえ名前って……!
「香波、大好き」
「っ!!?」
耳元で甘く囁かれて顔から火が出そうになる。
低い声が耳に残っている中、「わ、私も……」と必死で応える。
「相沢くんが……大好きです……」
「誰が好きだって?」
ぎゅーと私を抱きしめながら、相沢くんがクスクスと笑う。
い、意地悪……!
呼吸を整えて、私は相沢くんの背中をぎゅっと掴みながら言った。
「ひ、ひ、ひろ……」
“浩也くん”。
心の中では呼べるのに、いざ口にしようとすると、うまく声が出てこない。
「ひ、ろ、……!む、無理です!恥ずかしすぎます!」
「ははは!ごめんごめん」
もう心臓が爆発してしまいそうだったのでギブアップすると、相沢くんは楽しそうに笑った。
「じゃあ、名前呼びはしばらくあとでいいから、敬語は直してくれな」
「うっ……頑張ります……」
「“ます”?」
「が、頑張るっ!」
慌てて言い直すと、相沢くんは、初めて私が文化祭のことで自分の意見を言った時みたいに……。
「よくできました」
あの時みたいに優しく言って、大きな温かい手で頭を撫でてくれた。
「あっ!そういえば柏木くんと野川先輩はどうなりまし……じゃなくて、どうなったかな?」
「そうだなー。あとで閉会式が終わったあとにでも聞いてみるか」
そのあとしばらく、誰もいない屋上でのんびり他愛のない話をしていると、文化祭終了の案内が放送で流され、私たち生徒は体育館へと招集された。