「香波……いくらなんでも緊張しすぎでしょ」
「だ、だって、こういう場に出るのは生まれて初めてなもので……」
声を押し殺す代わりに肩を震わせて笑っている相沢くんだけど、私はそんなギャグを狙おうとしているわけではない。
あんなに広いはずの体育館に、全校生徒と先生が集まれば狭く感じてしまうぐらいで、しかも当たり前だけどみんなこっちを見ている。
きっと、マイクの前に立ったら、足が震えてしまうに違いない。
「相沢くん……私、やっぱり……」
“無理”と言おうとしたけど、相沢くんが私の頭に手を置いたのに驚いて、その言葉は遮られた。
「無理じゃない。お前ならちゃんとできる。第一、最後まで文実委員の仕事を全うするって決めたんだろ」
あ……そうだった。
今朝も、最後まで頑張るってお母さんに言ってきたばっかりだった。
「とりあえず、人って3回手に書いて飲み込んどけ」
なんてベタな対処法……!
まあ、一般的に私もそれをやろうとも思ったけど、私はそれよりも、今みたいに相沢くんにわしゃわしゃと頭を撫でてもらったほうがリラックスするみたい。
いつの間にか不思議と緊張はほぐれていて、バクバクしていた心臓もなんとか収まった。
「それでは次、1年2組お願いします」
司会に促され、私と相沢くんは顔を見合わせて頷くと、壇上へ向かう。