「あれ、香波。まだ居たんだ」
ジャージ姿の相沢くんが教室にやってきた。
「あ、相沢くんっ!」
「明日のPRの練習?」
「うん。相沢くんは、サッカー部の準備の途中?」
「みんなすぐサボろうとするからなかなか終わんなくてなー」
困ったように笑いながら、「ちょっと休憩」と言って床に座る。
机と椅子は、喫茶店として必要な分しか教室になくて、他のは誰も使わない空き教室に置いてあるからだ。
「すげーなぁ。普通の教室だったはずなのに、文化祭ってだけでこんなにもガラリと雰囲気が変わるんだな」
相沢くんが、感慨深そうに教室の内装を眺める。
確かに、もともとはどこの教室も普通の何の変哲もない教室だったはずなのに、文化祭という行事でその姿が一変するから不思議だ。
クラスごとに出し物が違うのもあって、それぞれの教室がまったく別の個性ある教室に変わっている。
体育祭でも学校全体がこんなにも姿を変えることはない。そういう意味では、文化祭という行事は学校生活の中でも結構特別なものなのかもしれない。
「そう考えると、私たち文実委員ってすごい素敵な委員会ですよね」
「え?何で?」
聞き返してきた相沢くんに、私は少し笑って、自分なりにそう思った理由を話した。