「でも、野川さんがこの前相沢に告白したら振られたって話を風の噂で聞いて、それであの日中庭で問い詰めたら……」
それは真実で、さらに野川先輩は、「浩也くんのことは諦める」と柏木くんに言ったそうです……。
「俺が今までしてたことは全部無駄だった。自分が勝手にしてたことだけど、そんな簡単に諦められたら俺が野川さんの為にと思ってしたことを全部否定されたような気持ちになったんだ。俺はただ彼女に幸せになって欲しかっただけで、その為ならどんなこと卑怯な手だって使ってやるって思ってたのに……!」
ぐっと拳を強く握り締める柏木くん。
そんなにも、柏木くんは野川先輩のことが好きだったんだ。振られたあともずっと。
そう思うと、どうしようもなく苦しくなってきて、涙が溢れてきてしまった。
「柏木くん……ほんとに、ほんとに野川先輩のことが大好きだったんですね……」
「でも……香波ちゃんを利用するなんて最低だよ。だからこんな結果になったんだと思う」
ごめんね、としきり繰り返す柏木くん。
私はその度にぶんぶんと首を横に振り続けた。
「香波ちゃん……本当に君は優しいんだね。俺のために泣く必要なんてないのに……」
優しくなんかない。
柏木くんのほうがつらいのに、私が泣いてしまって申し訳ないくらいだ。
それでも柏木くんは困ったようにだけど笑顔を見せてくれて、相沢くんは私の背中をさすってくれた。