「柏木くん、野川先輩と何かあったんですか……?」
私がそう言うと、柏木くんはびっくりしたのか、目を見開く。
真ん丸な黒い瞳は、悲しい光を帯びているような気がする。
「あの、私この前中庭で柏木くんと野川先輩が一緒にいるところを見たんです。話してた内容までは知らないけど……」
「……そっか、香波ちゃん見られてたんだ」
ポツリとつぶやく柏木くん。
「柏木くんっ。野川先輩と喧嘩でもしたんですか?あの、私に何かできることがあったら……」
柏木くんは、私の言葉を聞いてしばらく黙り込んでいたけど、俯いたまま静かに口を開いた。
「何でそんなこと言うの。できることがあったら、って……仮に香波ちゃんにできることがあったとして、俺を助けようとでも思ってるわけ?」
「私なんかが助けられることがあるなら、力になりたいです」
「何で俺なんかを?香波ちゃん、俺のこと嫌いでしょ?」
「どうして私が柏木くんを嫌いなんですか?」
何も考えないで、真っ先にその言葉が口をついてでた。
だけどそれが柏木くんには理解できなかったのか、さっきよりもさらに目を大きく見開いた。