私は思わずその先の言葉を飲み込んだ。


相沢くんが、いつになくまっすぐな目で私を見ていたから。


「男の子だったら、何?」


「え……」


ドキッと跳ね上がる心臓。


さっきまでの可愛い相沢くんがどこかに行ってしまった。
今目の前にいるのは……男の子の相沢くん。



「香波は、男の俺には惚れてくれないの?」



腕を引き寄せられて、前のめりになった私を支える形で相沢くんに抱きしめられる。


「あっ……あいざ……」


「最初は確かに、お前に委員長を重ねて声をかけた。でもそのあとはそうじゃない」


状況が理解できない。
突然相沢くんが私を抱き寄せて。そんなことを言ってきて。


「そのあとは、一度も委員長と重ねたことなんてない。ちゃんと香波のことを見てたから」


低い声が耳元で聞こえて、身体の熱が急上昇していくのがわかる。


相沢くんの腕の強さ、がっしりした肩、見た目は女の子の姿なのに、それらに「やっぱり男の子なんだ」って感じてドキドキする。


熱い……心臓がうるさい……。


うまく呼吸ができなくて、どうにかなってしまいそう……。


「俺、香波のこと……」


「ま、待ってください!」


ぐいっと相沢くんの肩を押してその腕から逃れる。


「えっと、その……」


やっと酸素を取り込むことができ、頭も働き始める。



“俺、香波のこと……”



その先に続く言葉は何?



「お、お先に失礼します!!」


私は、勢い良く教室を飛び出した。
あれ以上、相沢くんのまっすぐな視線に見つめられていたら、本当にどうにかなってしまいそうだったから。


廊下を駆け抜けながら、必死にさっきの相沢くんの言葉の意味を考える。




野川先輩が言っていた、相沢くんの好きな人って……。


私のことかもって、自惚れてもいいんですか……?