「私は……」


そんなんじゃありません、と言おうとしたんだけど。


「本当のこと言って。桜さん」


野川先輩の言葉で、言いかけた言葉を飲み込む。


本当のことを言ってどうするの?
野川先輩と相沢くんは好き同士なんだから、それでいいじゃないですか。


私がここで本当のことを言って、仮に先輩が私のために身を引いてくれたとしても、相沢くんは先輩のことが好きなのは変わらない。


相沢くんに告白しようとは決めたけど、振られているのが目に見えているから、野川先輩には知られたくない。
いわゆる恋敵である先輩に負けた、惨めでかわいそうな私なんて見られたくない。


「私は……相沢くんのこと……」


“好きとかそんな特別な感情は持ってない”


……そう言うのは簡単なことのはずなのに。


自分が初めて抱いた恋心に、大切な気持ちに嘘をつくなんてできなかった。したくなかった。



「……っ、好きです……」



絞り出したような小さな声だったけど、野川先輩にはきちんと聞こえていたみたいで、優しい声が返ってきた。


「そっか。それならよかった」


「え……?」


よかったって、どういう意味……?



「私のことは気にしないで。
彼にはとっくに振られてるから」