「香波ちゃん……」


それでも聞きたくなくて、両耳を塞いでうつむくと、柏木くんはもう何も言ってこなくなった。


「じゃあ、暑い中申し訳ないけど、1年生!足りない材料の買い出し頼む!」


副委員長の指示を受け、一斉に教室を出る1年生の文実委員たち。
私もそのあとに続こうとすると。


「香波ちゃん、一緒に買い出し行こう」


そう言って、天使のように微笑む柏木くん。


ひとりになりたいから断ろうとしたけど、どこか有無を言わさない雰囲気があって、思わず首を縦に振ってしまった。




「また香波ちゃんと一緒に買い出しなんて、嬉しいなぁー♪」


るんるんと軽くスキップをしながら、私の少し前を行く柏木くん。


それに答えることなく、私はとぼとぼと自分の足元を見て歩いていた。


「元気ないなー!香波ちゃん、どーしたの?」


「わわっ!」


ひょこっと下から顔を覗き込まれて、私はびっくりして顔を上げた。


その直後に、不敵に笑う柏木くんと目が合う。


「柏木くん……?」


「相沢に振られちゃったりしたの?」


「っ!!」


図星をつかれ、みるみるうちに耳まで真っ赤になってしまう。


そんな私を嘲笑うかのように、柏木くんは言った。



「野川さん、相沢の家に行ってるよ」



……やっぱり。そうなんだ。


何で、柏木くんがそんなことを知ってるんだろう、なんて不思議に思いつつも、私の心は別のことでざわついている。


「お見舞い……行ってるだけですよ」


そうあってほしいと願いながらつぶやいた私に、柏木くんは嫌な一言をぶつけた。