「……だったら、いいんだけど」


わたしが答えると、朗は小さく笑いながら、再びわたしに目を向けた。

何も変わっていない、柔らかい眼差しだ。


……手を伸ばせば簡単に触れ合えてしまうほど近くにいるのに、わたしたちの間には、見えない何かがきっとある。

それは、傍にいるはずのわたしたちを、遠くに隔てている何かだ。


わたしは朗のことを知らない。

朗はわたしのことを知らない。


「夏海」


だけど今は、それでいい。


「明日には、海に着くかな」


わかり合いたいとか、そんな気持ちじゃない。

ただわたしがここに居て、ただきみが、そこに居ればいい。


「うん、たぶんね」

「そうか、楽しみだな」


そしてまたふたりで、遥かな蒼い海を、目指すんだ。