「そうだ、夏海。今さらだけど」
毛布を深く被り直した朗が、思いついたように口を開いた。
こしこしと今にも閉じてしまいそうな目を擦りながら、わたしは朗を振り向く。
朗は微かに眉を下げ、窺うように上目でわたしを見つめていた。
「夜になっても帰らなくて、お前の家族は心配してないかな」
珍しく申し訳なさそうに呟く朗に、本当に今さらだな、そう思いながら笑ってしまう。
「大丈夫だよ」
「そうか、ならいいんだ」
答えると、朗は安心したように息を吐いた。
制服のスカートに僅かな小銭とともに入っていた折り畳み式のケータイ。
枕元に置いてあるそれは、一切の着信も知らせていない。
大丈夫。
心配なんてしていない。
わたしを心配してくれる家族なんて、どこにもいない。