小さく囁くような声がした。

朗が、微かに目を細め、瞳を揺らしながらわたしを見つめていた。


「俺は自分じゃ何もできないから、夏海にいろんなことを頼ってる。それって、いけないことなのかな」

「それは……」


そうだった。

自分は何も持っていない、何も知らない、それをわかっている朗は、最初からひとに助けを借りていた。

自分じゃできないから。

だから朗は、わたしに頼んだ。

朗ができないことを、わたしはできるから。


わたしは朗に、頼られていたのだ。


「夏海は嫌だった? 怒ってる? 俺は夏海に、嫌な思いをさせてしまったかな」

「朗……」


朗の伸びた前髪が、彼の白い額を滑って落ちた。

薄暗い部屋の中で見ても、彼の肌はやはり、雪のように白く綺麗だった。


「……大迷惑、だけど、でも、嫌じゃない」