「……」


心の中でさんざん葛藤した末、ゆっくりと後ろを振り返った。

そこには、わたしがついさっき通って来た鍵の壊れた古い扉がある。

だけど、人影はない。


……まさかの空耳だろうか。

いや、でも、確かに聞こえたはずだ。

風の音でも、葉擦れの音でも、もちろん鳥の鳴き声なんかでもなかった。

確かに人の声がわたしを呼んでいて……けれど、誰も、いなくて。


……だったら一体何だったんだろう。

まさかとは思うけど、こんな状況になって、幽霊の声でも聞いたんだろうか。



そう思いかけたところだった。

もう一度その声が、わたしに向かい降りかかる。



「うえ」


つられるように顔を上げた。


そこは、階段へ続く壊れた扉のちょうど真上。

わたしがいるこの場所よりも、僅かに空に近い場所。



「遅い、気付くの」



どこまでも透き通るような青を背景に、きみは、居た。