「はい、これあげる」
突然、そんな言葉と共に、目の前にビンに入ったオレンジジュースが差し出された。
朗とふたり顔を上げると、店主のおばあさんが、そのビンを持ってわたしたちの前に立っていた。
「でも、わたしたちもうお金持ってないんですけど……」
「いいのいいの、私のおごりだから」
おばあさんがさらにずいっとビンを差し出すもんから、わたしはおずおずと、朗は躊躇うこともなく、そのビンを受け取った。
「あなたたち、これからどこに行くの?」
貰ったオレンジジュースで喉を潤していたら、しゃがみ込んだおばあさんがそう訊ねてきた。
この時間だと、どこかに行く、というよりは、行ってきた、と思うものじゃないかと思ったけれど、そこはやはり、年寄りのするどい勘、なのだろうか。
「ああ、海に行くんだよ」
朗が、快活に答える。