わたしは軽く口を開けたまま、何か言い返すこともできず、きょとんと自分を見ている朗を見つめ返していた。
だってまさか、“金持ち”という答えが返ってくるとは思いもよらなかったもので。
「……じゃあなんで、朗はお金持ってないわけ」
金持ちなら、わたしがわざわざなけなしのお金を出してアイスを買ってあげる必要なんてなかったじゃないか。
というかそもそも、こんな風に自転車で遠くの海を目指す必要もないんじゃないか。
わたしの脚力を頼るより、お金に頼んだ方が迅速かつ確実なのに。
そしてわたしもこんな苦労しなくていいはずなのに。
「でも、金があるのは俺じゃなく親だ」
なんでそんな当たり前のことを訊くんだとでも言いたげに、朗は眉をひそめる。
確かに、それはその通りなんだけど。
わたしはたちはまだ、親のすねを齧って生きているだけだし。
でも、そういうことじゃないような、いや、そういうことだけど……。