声が、聞こえた。
宙に投げ出したはずの足は、宙の一歩手前、屋上の縁ぎりぎりのところへ着地する。
止めるつもりはなかったのに、体が勝手に反応して。
だって、こんなところ。
誰もいないと思っていたのに。
誰もいなかったはずなのに。
まさか、こんなところを。
人に見られてしまうなんて。
「なあ」
もう一度、その声が呼ぶ。
知らない声だけれど、呼ばれているのはきっとわたしだろう。
何事もなかったかのように振り向くか、それとも聞こえない振りをしてしまうか。
「なあ、お前だよ。聞こえてるんだろ」
いや、この状況で、聞こえない振りなんてできるわけがない。