「夏海も一緒に手を合わせてくれないか」


そろそろ行こうと立ち上がりかけたところで、朗の声にそれを止めた。

視線を返すと、「一緒に祈ってほしいんだ」と朗は続けて。


「まあ……いい、けど」


わたしは座り直して首を傾げる。


「祈るって、何を? ちゃんと天国に行けるように?」

「それもだけど」


朗が、少しだけ違う色の土に目を向けた。

いや、その中で眠る、猫にだろうか。


「この子が来世では、長く自由に、生きられるように」


静かな声が葉擦れの音の中に響いて。

わたしは、朗と同じように、猫の墓を見つめた。


「……うん、わかった」


わたしが置いた青い花と、朗がわたしを真似して供えた黄色い花が、咲いている。

わたしは両手を合わせ、そっと瞳を閉じた。


暗闇の世界で、わたしはただ、この猫の幸せだけを、願った。