朗の手の中の猫は、見る限り、まだ轢かれて間もないようだった。
きっとわたしたちがここを通りかかる少し前に、事故に合ってしまったんだろう。
「……ついさっきまで生きていた命だ」
わたしの視線に気付いたのか、朗がぽつりと呟いた。
そして、猫を入れられる深さまで穴が掘られたのを見ると、その場にしゃがみ込んで、まるで宝物を扱うみたいに、そっと猫を寝かせた。
「……静かに眠れるといいな」
猫の体に土を掛けて、最後にひとつ小さな頭を撫でてから、朗はそこに土を被せた。
猫の姿が見えなくなった場所を、撫でるようにして馴染ませる。
わたしは傍らに立ちながら、そのひとつひとつの動作をじっと見つめていた。
変な人だ。
普通、道で轢かれた野良猫に、こんなことをしてあげる人いないのに。
だってそんなもの、傍から見れば、ただの汚い“もの”でしかないんだから。
関わってはいけないもので、見てしまったら、すぐに視線をそらすもの。