「じゃあ降りて! 後ろから押して!」


サドルに座り直し声を上げる。

そのせいでさらに暑くなった気がしたけれど、暑過ぎて何が本当かもよくわからない。


「そんなことしたら、きっと俺倒れる」

「それくらいで倒れない! それにこのまま続けたら、あんたより先にわたしが倒れる!」

「それはまずいな。お前がいないと困る」


朗が焦ったように荷台から降りる。

ひと一人分がなくなった自転車は、もっと減ってんじゃないかって思うくらいに軽くなった。

これなら、この坂道でもなんとか進めそうだ。

たぶん。


「よし、じゃあわたし頑張るから。朗も頑張ってね」

「ああ、まかせとけ」

「その調子でわたしを乗せてくれたら一番なんだけど」


軽く皮肉を込めて言ったつもりだけど、にこにこと笑っている姿を見れば、どうやら伝わりはしなかったみたいだ。


わたしは小さく息を吐き、そしてそのまま、大きく吸い込んだ。


「じゃあ、てっぺんまで行くぞ!」

「おう」


ハンドルを強く握って、サドルに置いていた腰を浮かせて。

幾分か軽くなったペダルを、力いっぱい踏み込んだ。