蒸し暑く、景色のゆらゆらと歪む中、安物ぽんこつ自転車をふたり乗り。

それだけでも脳みそが溶けてしまいそうなほどに辛いのに、そのうえ山道を行くなんて。

絶対無理だ、行けっこない。


だけど、この山を越えなければ、海のある町へは行けない。


絶対無理だ、行けっこない。


それでも、行かなければいけない。





「も、もう無理……」


わたしは、緩い傾斜のある坂道を必死で登っていた。

高低差はそんなに激しくないけど、それでも山道は山道。

普通なら、こんな安物自転車ふたり乗りで、通る様な道じゃない。


「がんばれ夏海。お前なら行ける」

「応援いらないから手伝ってよ!!」


踏んでも踏んでも回らないペダル、ふらふらと揺れるハンドル。

破れそうな肺、止まりそうな心臓。


「見ろよ、可愛い花が咲いてるぞ」


後ろでのん気な、同乗者。