長い旅はまだ始まったばかりだけれど、それでも早速、わたしにはいくつかの困難が待ち受けていた。


容赦なく照りつける直射日光、渇く喉、重たいペダル、うるさい後ろの奴。

そして、目の前の、山。



「あ、もしかしてあれが紅葉山か?」


息も切れ切れ必死でペダルを踏み続けるわたしの後ろで、朗がのんびりと口を開く。

わたしは目に入りそうになる汗を拭いながら、目の前に聳え立つそれを見上げた。


紅葉山。

本当の名前は確か別にあったけれど、地元の人には通称でそう呼ばれている。

その名の通り、秋になれば美しい紅葉を見せてくれる、この辺りでは有名な観光スポットのひとつだ。

けれど真夏のこの時期、もちろん山は紅くなんかなっていなくて、秋には賑やかなこの場所も、今はただの田舎の山のひとつに過ぎない。


「あそこを通って行くんだよな」


楽しげな声が背中越しに聞こえる。

違うよ、わたしはそう言いたくなる気持ちを抑えて、「うん」と諦めも含めて呟いた。