きっとこれは、無謀すぎるにもほどがある旅なんだろう。
最高気温を更新し続ける昼日中、どれだけ距離があるかもわからない海に、自転車を二人乗りして向かおうというのだから。
おまけに今気付いたけれど、あまりお金がないから食べ物を買うこともできないし、例えば夜を越すとして、どこかに泊まることも無理。
……もしかしてわたしたちは、海に辿りつく前に死んでしまうんじゃないんだろうか。
冗談抜きで、至極真面目な本気で。
だけど、必死で自転車を漕ぐわたしの後ろにいる朗は、そんなこと、頭を掠めてすらいないらしい。
なにがそんなに楽しいのか知らないけれど、通り過ぎる街並みを見ては、声を上げてわたしに伝える。
「見ろ夏海、大きな犬だ」
「見たよ。でかかったね」
「なあ、あの赤い車かっこいいな」
「ほんとだ、高そうだね」
出来る限り体力を温存しようと、わたしは素っ気ない返事しかしないけれど、朗はそんなこと気にする様子もない。
もとからわたしの返事など待っていないかのように、ただ楽しそうにはしゃいでいる。