「何? 俺、変なことしたかな?」


朗があまりにも不安そうに訊ねるから、もっと可笑しな気持ちになった。

だけど笑い声だけは堪えて、不安げなその表情を見上げる。


「うん、した。ずっとしてる」

「嘘だろ、どこがだよ。言ってくれ、直すから」

「いいよ直さなくて。面白いから」


朗に向かいそう言ったところで、ふと、考えた。

そう言えば、最後に笑ったのはいつだっただろう。

もちろん、覚えてなんているわけないけど、なんだか、こんなにきちんと笑えたのは随分久しぶりな気がして。

だからって何かが変わるわけでもないけれど、膨らんだ風船から空気が抜けていくみたいに、少し、体の力が抜けた気がする。



「───朗」


彼の名前を呼んだ。

朗は、まだ納得いっていないような面持ちだったけれど、朗がわたしの思いをとことん無視するように、わたしもそんなことはお構いなしだ。


冷たい手を握り締めて、今まで引かれていたそれを、引っぱって。



「行こう、海へ」



きみと一緒に、無謀な旅を。