柔らかくて涼しげな声。
のそりと伏せていた顔を上げると、朗が少しだけ目を細めて、わたしを見つめていた。
陽射しに陰った廊下の隅で、白い肌が、よく映える。
「一緒に来てくれ、夏海」
朗の瞳が、わたしに優しく微笑みかける。
相変わらず汗ひとつ掻いていない朗の額で、少し長めの前髪が、どこからか吹く隙間風に揺れていた。
「俺は、お前がいないとだめなんだ」
困ったように、首を傾げて。
そんな、まるで長年連れ添った夫婦の別れ際みたいなせりふを吐くから。
わたしたちは、ついさっき出会ったばかりの、何も知らない赤の他人なのに。
「……変、なの」
その言葉と一緒に唇から零れたのは、堪えきれない小さな笑み。
朗が怪訝そうな朗が覗き込んでも、ゆるゆると、口元は緩んでいく。