意識もしないまま目を逸らした。

長い睫毛の奥で揺れる瞳を、見ていることができなかった。


「だいたい……自転車で行くって、どれだけ時間掛かると思ってるの? 今日1日じゃ無理だよ」


下げた目線の先には、わたしと朗の手が見える。

まだ、繋がれたままの手。


真夏の温い空気のように熱いわたしの手と、真冬の雪のように冷たい、朗の手だ。


全然違う温度。

違うからこそ、そこにあるのがよくわかる。



「時間が掛かる、か……そっか。だから、無理だって言うんだな」


独り言みたいに朗は言った。

わたしはまだ、顔を上げることができなくて。


掌から、朗がわたしの手をきつく握りしめる感触が、伝わってくる。



「だけどいつかは、必ず辿り着くんだろ」