朗がまた、考え込むように口をつぐんだ。
わたしはその後ろで、彼に聞こえないように小さく息を吐く。
この人は、一体何を考えているんだろう。
何かしらを思い浮かべているようだけど、まともなことを考えているとは到底思えない。
なんだってこんな常識はずれで的外れなんだ。
わたしが言えた義理じゃなくても、言いたくなるくらい、馬鹿馬鹿しい考え。
「なあ、夏海」
ふいに朗が、足を止めてくるりとわたしに振り向いた。
驚きながらもなんとかぶつかる前に立ち止まると、朗は覗き込むようにわたしに顔を近づけてくる。
反射的に半歩後ずさる。
綺麗な顔が、それはもう言葉通り目と鼻の先にあって。
黒い長めの前髪が、瞬きと一緒にゆらりと揺れる。
「お前、自転車は乗れるか?」