真っ暗だった。


少しの光すら届かない場所だった。

音もなかった、風もなかった。


あるのはただ、俺の存在だけで。

でもそれも、今にも消えてしまいそうなほどに小さくて。


助けて、って叫んでも、声は声にならなくて。

必死で手を伸ばしても、指先は、闇の中へと消えていく。



寒くて、寒くて、凍えてしまいそうで。


恐ろしかった、とても。

哀しかった、泣けないくらいに。


もうこのまま、ここから、たったひとりで消えてしまうんじゃないかって。


そう、思っていた。




───朗




俺の名前だった。

俺の名前が聞こえた。


何もなかった世界に、真っ暗闇だった世界に。


俺を呼ぶ声が、聞こえた。


何度も何度も、その声は俺の名前を呼んで。

それを頼りに手を伸ばしてみたら、その声は俺の手を掴まずに、だけど俺の全部を、抱きしめてくれた。



もう、寒くはなかった。