「さあって……何も考えてないの?」

「ああ。だって知らないんだ。海って、どうやったら行けるのかな」


足を止めないまま、だけど顔だけでわたしに振り向いて。

馬鹿にしてるのかと思ったけれど、その表情は、わたしをからかっているという感じには見えない。


……まさか本当に、本気でそう訊いているのだろうか。

その方がよっぽど性質が悪い気もするけれど。



「……まあ、一番いいのは、電車じゃない? 2時間くらいかかるけど」

「そうか。じゃあそれで行こう」

「でもわたしお金ないよ」


死ぬつもりでここに来たんだ。

持っているのは携帯と、スカートに入っていた僅かな小銭のみ。

とてもじゃないけど、電車になんて乗れそうもない。


「まあ、朗がわたしの分も払えそうなら、問題ないけど」


むしろ付いて行ってあげるんだから、それくらいは当然だろう。

海辺の街までは路線図で見ても随分遠くて、運賃も決して安くはなかったはず。

それをわざわざ自分で払う気にもなれないし、そもそも持っていないし。

だから、それくらいはこいつに出してもらおうと思ったんだけれど。


朗が、少しだけ歩を緩めて、困ったように眉を下げながら、笑うもんだから。


「悪い、俺もない」